教育無償化のあり方を考えるために知っておきたいこと
今後の日本の教育無償化のあり方を考えるために、それが検討されてきた背景や、根拠となる基本的な考え方を知っておきましょう。
教育の「私的収益率」と「社会的収益率」
教育無償化の根っこにある考え方が、教育の「私的収益率」と「社会的収益率」です。
簡単に言うと、私的収益率は「その教育によって個人がどんなメリットを得たか」、社会的収益率は「その教育によって政府財政がどんなメリットを得たか」ということ。つまり、教育に対するコスト負担と利益が、どのように分配されているか、という視点です。
教育は個人のためのものだけでなく、その成果が社会に還元されているという考え方から、教育費の公的支出や無償化が必要とされるのです。
参考
畠山勝太『女子教育問題を紐解く…前におさえたいふたつの教育アプローチ』|WEZZY
就学前教育に力を入れるべき理由
OECDの「図表でみる教育」カントリーノート日本(2017年版)は、日本の幼児教育の在学率が高い一方で、その教育支出のほとんどを家計が負担し、公的支出の割合がOECD諸国最下位であると指摘しています。
また前出の畠山勝太氏は、教員一人当たりの児童数の多さから、日本の就学前教育はその質に対しても公的支出が足りていないと指摘しています。
参考
図表で見る教育2017年度版 カントリーノート 日本|OECD
畠山勝太(2012年)『OECD諸国との教育費支出との比較から見る日本の教育課題』|SYNODOS
高等教育と女子学生支援の重要性
高等教育に目を向けると、大学以上の高等教育において、日本の公財政支出の割合は34%、OECD加盟国平均70%の半分にとどまります。一方、家計負担の割合は51%で、こちらはOECD平均22%の倍以上に上ります。
また、高等教育における私的収益率は、男性が8%である一方女性は3%に過ぎません。社会的収益率は男性が16%、女性はなんと21%です。この男女格差には、高所得につながりやすい科学関連分野に進む女性が少ないことも関係しています。女性の貧困にもつながる問題であり、高等教育での女子学生支援が重要なのです。
参考
図表で見る教育2017年度版 カントリーノート 日本|OECD
図表で見る教育のOECDインディケータ(2018年度版)A5 教育からの収益:教育投資への誘因|OECD
まとめ
今回導入される教育費の無償化は、必要で大事な制度であるものの、まだまだ十分なものとは言えません。人によっては、歓迎できる部分、歓迎できない部分もあることでしょう。しかし制度は、それを享受するわたしたちが作っていくものです。内容やその意義、背景を理解し、より良い制度の実現に向けて、親のひとりひとりが考え、声を上げていきましょう。
参考
幼児教育の無償化|文部科学省
高等教育段階の教育費負担軽減|文部科学省
教育無償化に年1.5兆円 制度の具体策了承|日本経済新聞
赤林英夫(2017年)『幼児教育の無償化はマジックか?-日本の現状から出発した緻密な議論を』|SYNODOS
畠山勝太(2017年)『アフリカから学ぶべき日本の教育無償化のダメな議論』|SYNODOS
畠山勝太(2012年)『OECD諸国との教育費支出との比較から見る日本の教育課題』|SYNODOS
畠山勝太『女子教育問題を紐解く…前におさえたいふたつの教育アプローチ』|WEZZY
図表で見る教育2017年度版 カントリーノート 日本|OECD