変化の多い社会で必要とされる「キャリア教育」。子供たちに、単なる詰め込み式の教育ではなく、精神的、社会的な教育を施すことが今求められています。キャリア教育の目的や意義、実践例などについてご紹介します。
もくじ
キャリア教育とは
キャリア教育の目的
キャリア教育という概念が生まれたのは、1970年代初頭のアメリカ。米国連邦教育長官のマーランドによって唱えられたのが最初です。日本では、1999年ころから政策として進められるようになりました。
文部科学省は、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義しています。「キャリア」とは、人生を過ごしていく中で担う役割を果たし、役割の価値や関係性を見いだしていくことです。職業やスキルで得た経験だけでなく、自分の役割や価値について考えていくことがキャリアにつながります。
キャリア教育は、小学校から中学校、高校と成長していく中で、成長段階に合わせた形で実施されます。内容は、ボランティア活動から就業体験、社会見学、インターンシップなど幅広く、「働くこと」「専門知識やスキルを得ること」の大切さを学ぶことができます。
キャリア教育の意義
キャリア教育が重要視されている背景には、グローバル化、雇用の多用化・流動化、産業や経済の構造的変化などが挙げられます。社会環境の変化と同時に、子供たちの将来に対する考え方も変化しています。これまでの大人たちの過ごし方は、激変する社会では必ずしもロールモデルにならず、将来への希望や夢も描くのが難しくなっている、と文部科学省は指摘しています。
さらに、子供の精神的・社会的側面での発達の遅れが目立っています。例えば、「人間関係をうまく築くことができない」「自分で意思決定できない」「自己肯定感を持てない」「将来に希望をもつことができない」など。これらの悩みや問題を持つ子供が増えてきています。
こういった諸問題が挙げられるなか、子供たちが未来に希望を持って生きていくためには、変化を恐れない対応力や姿勢を育んでいく必要があります。そういった子供を育てていくための一つの要素が「キャリア教育」です。
参考
小学校におけるキャリア教育とは
文部科学省の掲げる小学校でのキャリア教育についてご紹介します。
小学校全体のキャリア教育
小学校でのキャリア教育の目標は、「自己及び他者への積極的関心の形成・発達」「身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上」「夢や希望、憧れる自己イメージの獲得」「勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成」を掲げています。
これらを通して、「キャリア発達」「学ぶことや働くことの、生きることの尊さを実感させ、学ぶ意欲を向上させる」「将来の社会的自立・職業的自立の基礎となる資質・能力・態度を育てる」「望ましい勤労観・職業観を育てる」ことなどを目指しています。
低学年でのキャリア教育
低学年で実施するキャリア教育は、「小学校生活への適応」「自分の好きなことを見つけて、のびのびと活動する」「身のまわりの事象への関心を高める」ことなどを目指します。
日常生活では、日直や清掃、給食当番、朝の会・帰りの会などを通して、周りのために動くことへの関心を高め、決まりを守りながら生活や遊びを経験させます。
教科では、「学校たんけん」「まちたんけん」「お手伝い大作戦」などの行事を通じて、自分や周りの人々、社会への関心を高めて自立の基礎を養います。
道徳では、授業を通して、約束や決まりを守り、自分の責任を果たしていくことを求められます。
中学年でのキャリア教育
中学年でのキャリア教育では、「友達と協力して活動する中で関わりを深める」「自分の持ち味を発揮し、役割を自覚する」ことを目指しています。特別活動では、「縦割り行事」「学級集会」「地域清掃」「係の仕事発表会」などを通して、周りと協力し合える人間関係を築く態度を育て、自発性や積極性を生かしていきます。
教科では、「わたしの研究レポート」「昔の暮らし」「大きくなってきたわたしの体」などを進め、学習と将来の生き方や日常生活とのつながりを気づかせる機会を設け、意欲向上につなげます。
高学年でのキャリア教育
高学年でのキャリア教育では、「自分の役割や責任を果たし、役立つ喜びを体得する」「集団のなかで自己を生かす」「社会と自己の関わりから、自らの夢や希望をふくらませる」といった発達課題を掲げています。
日常生活では、給食当番や日直、係、清掃といった学校活動から自分で課題を発見して解決していく力を身につけます。総合的な学習の時間では、社会の一員としてできることを考え探究的に活動を取り入れ、地域社会に関わる喜びやものづくりの楽しさを実感させます。外国語活動では、日本と外国の文化、言語の違いから、多様な見方、考え方を実感していくことを目指します。
参考
小学校におけるキャリア教育推進のために「自分に気付き、未来を築くキャリア教育」|国立教育政策研究所