ブラック企業リストを公表することにはどんな意味があるの?
企業に対する牽制
法令違反によって会社名が公表されてしまうことは経営者にとって恐ろしいことかもしれません。しかし、厚生労働省はあくまでも啓発や周知が目的であり、制裁を加えるためではないという立場を取っています。
なお、当該公表は、その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的とし、対象とする企業に対する制裁として行うものではないこと。
(引用元:違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について | 厚生労働省)
「社名が公表されるかもしれない」と考えることで踏みとどまる企業が増えるのであれば、このリストはけん制として機能していると言えます。実際、2019年に話題になった「ブラック企業マップ」(現在は閉鎖中)の運営者もそのような思いからサービスを開始したそうです。
経営者に「ネットで晒されるかもしれない」という危機感をもってもらい、少しでもブラック企業に対する抑止力になればいいと思って、このサイトを作りました。
それに、少しでもいいから、「もしかしたらこのサイトを作っているのは、うちの社員かもしれないぞ」というふうにも思わせたいです。
(引用元:「ブラック企業マップ」で違法企業を可視化 サイト運営者の思い | ライブドアニュース)
このようなリストの存在によって労働関連法規の違反が減り、働きやすい環境の企業が増えるかもしれません。そうなれば抑止力として一定の効果があったと評価できるようになるでしょう。
労働者の判断基準
リストの存在は働く側に対しても一定の判断基準を示します。「この会社は待遇が悪そうだからやめておこうかな」というように個別の会社選びに役立ちます。
また、公表理由の方を参照することで「こういうことをする会社は法律違反になるんだな」と知ることができます。「この会社、ブラックかな?」と判断に迷ったときの資料として活用できそうです。
社会への問題提起
「ブラック企業」という言葉や過重労働・ハラスメントについて、ここ数年で社会の認識が深まってきたのは間違いないでしょう。しかし一方でいまだに「社会はこんなもんだ」「みんな同じで大変なんだから仕方ない」という考え方で片付けられてしまうことがあるのも事実です。
そのため、「このように法令違反している企業があります」ということを客観的な指標で示すことは非常に重要です。リストに掲載される企業が減っていけば、日本全体で働く環境が改善されていくかもしれません。先に紹介した改正労働施策総合推進法でも、経営者や国だけでなく、労働者も感心や理解を深めることを求めています。
労働者の側も、パワハラについて関心・理解を深めて、他の労働者に対する言動に注意しなよ、と定めています。
この条文によって、事業主(社長など役員含む)も労働者も、パワハラについて関心と理解を深める努力をすること、そして、国はそのような関心・理解を促す広報活動をすることなどが定められたということになります。
(引用元:先月成立した<パワハラ防止法>の解説と今後の課題(佐々木亮) – 個人 | Yahoo!ニュース )
社会全体が関心を持ち続けることができるよう、一定期間ごとに情報が公開される今の体制は今後も維持されていくべきでしょう。
定義が難しいので公的な発表が望まれている
前述した「ブラック企業マップ」の運営者のもとには「自分が働いていた会社がブラックだったので掲載してほしい」という依頼がよく届いたそうです。しかし「その会社が本当にブラックなのか」を客観的に判断する材料に乏しいため、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」以外の掲載は行わなかったそうです。
客観的な指標がないリスト化は過激化する恐れもあり、あまり望ましくありません。公正さの観点からも国などの行政機関が取りまとめて発表するのが最も信頼できる資料になるでしょう。「労働基準関係法令違反に係る公表事案」のみならず、労働施策総合推進法のこれからの動向にも注目が集まりそうです。
まとめ
「この会社は気に入らないからブラックだと言ってやれ」というように、ともすれば恣意的に運用されてしまいそうなブラック企業リスト。情報として利用する際は、ぜひきちんとした指標のあるものを利用したいところです。本記事で紹介した国のデータ等を活用すれば、参考になる情報収集が行えるでしょう。