教育社会学の歴史
20世紀初頭に始まった学問
教育社会学的な学問アプローチは、19世紀後半から20世紀初頭から徐々に進んでいったと考えられています。これは、この時期に教育が制度的に体系化されていったことと無関係ではないでしょう。
例えばイギリスでは、子供への教育が貧困脱出に有用であるという考え方が産業革命期に出現しています。教育が社会制度に影響を及ぼすことが実証として積み重なってきた時期に、より社会との関係性を深く考えるために生まれてきた学問といえそうです。
参考
産業革命期イングランドにおける労働者世帯の教育 : 手織工世帯を事例とした考察 | 大阪大学リポジトリ
日本では第2次世界大戦後に生まれた
日本で本格的に研究が行われるようになったのは第2次世界大戦後だといわれています。終戦直後に、それまでの教科書が間違いだらけだったという理由で墨塗りをさせられた、などの逸話があります。当時を知らない現代人でも、戦前と戦後の教育が大幅に変わったということをうかがい知ることができます。
このような教育の混乱期に、教育にはいったい何が起こっているのか、実態は何なのかを知るために教育社会学の研究は出発しました。現代では、教育やその周辺で社会的な問題として認識されているさまざまなことを扱う学問として成長しています。
参考
所蔵資料の概要 墨塗り教科書 折りたたみ教科書 | 東書文庫
教育社会学では実際にどのようなことを研究するの?
教育のあり方も多様化する現代において、教育社会学ではどのようなことを研究しているのでしょうか。日本教育社会学会は学会誌『教育社会学研究』を発行しています。現在一般公開されている最新号101巻より、実際の研究課題を見てみましょう。
「実際にどうなのか」から「どうするべきか」を考える
現代の教育社会学がテーマとしているのは、ほとんどの研究が「実際にどうなのか」を調査することによって「どうするべきなのか」を模索するということです。実際に教育の現場で起こっていることを知り、その中から何が問題なのかを抽出し、その解決法を探るというのが共有されている問題意識なのです。
いじめ問題
論文『「いじめ問題」にみる生徒間トラブルと学校の対応』では、A市で発生し加害生徒が逮捕されたいじめ事件を取り扱っています。事件の詳細は本文を参照していただくとして、注目したいのは加害生徒が逮捕された後の取り組みを論文が扱っているところです。
多くの場合、子供は逮捕されても保護観察や少年院を経て地元に戻ってきます。そのときにまだ義務教育期間であれば、母校に戻ってくるという可能性は少なくありません。また、進学しても地元から出ずに一定期間を生活する可能性もあります。被害者と加害者や、その家族が日常的に顔を合わせることももちろんあり得ます。
いじめが表面化すると、マスメディアや一般市民の関心はすでに発生してしまったいじめ事件の詳細に向きがちです。しかし学校は起こってしまったことに対処しつつ、これからの子供たちの生活にどう向き合っていくのかも考えなくてはいけません。「いじめ後」の教育はどうするべきなのか、インタビューを基に考えていく内容となっています。
学力格差
学力格差は現代の問題の一つです。学力調査をすると勉強が比較的できる層と、できない層に二極化してしまう、という話題を耳にしたことのある人もいるのではないでしょうか。
学力格差は、一度発生してしまうと固定化し、その格差が拡大していくといわれています。なぜそうなってしまうのかを取り上げたのが『学力格差の維持・拡大メカニズムに関する実証的研究』です。こちらは、関西のある自治体で毎年行われている学力生活実態調査のデータを統計的に分析した論文です。
前項のいじめについての論文は、一つの学校で起こった一つの事件を題材に掘り下げる定性的な研究でした。こちらは一つの市全体のデータを用いた定量的な調査となっています。同じ社会学的アプローチでも、方法論はいくつも存在するということが分かります。
教育・就職への家族・社会の関わり方
学校教育と、その先にある就職は、子供だけでなく家族も影響していきます。また、家族が教育に影響を受けるということもあり得るでしょう。教育の現場だけでなく、教育を取り巻く環境や社会にも目を向ける研究も行われています。
参考
中国小都市出身の大卒者の就職における家族の影響 | 教育社会学研究
国・私立中学への進学が進学期待と自己効力感に及ぼす影響 | 教育社会学研究
まとめ
教育社会学の概要について、学問的関心、歴史的な変遷、現代の研究課題を中心に紹介しました。教育社会学の関心事は、親の心配事と重なってくる分野も少なくなさそうです。興味を持った方は、入門書などから学び始めてみるといいかもしれません。
参考
「どうなっているのか」と「どうすべきか」を一緒に考える / 教育社会学者・本田由紀氏インタビュー | SYNODOS -シノドス-
『教職課程における教育社会学の位置づけに関する調査』報告書 | 日本教育社会学会
「いじめ問題」にみる生徒間トラブルと学校の対応 | 教育社会学研究
学力格差の維持・拡大メカニズムに関する実証的研究 | 教育社会学研究