主婦が仕事を探すには?転職サービスに聞く求職のコツと働き方の工夫 - cocoiro(ココイロ)

主婦が再就職や転職を考える際、家庭との両立や時間的制約がネックになることも少なくはありません。しかし「時間が許すなら正社員として働きたい」というニーズの強さも、各種調査などから伺えます。主婦が望む働き方を叶えるには、どうしたらいいのでしょうか。産後女性に特化し、正社員転職に強みを持つ転職サービス「QOOLキャリア」に、求人や採用の傾向、転職成功と両立のポイントなどを伺いました。

お話を伺ったのは:株式会社ビーボ QOOLキャリア事業部 部長 酒井陽大さん

主婦の仕事探しの現状は?

主婦の就業事情

総務省の「労働力調査」(2019年)によると、結婚している女性(15~64歳)の50.6%が、パート・アルバイトの雇用形態で働いています。しかし、パートやアルバイトという働き方は、必ずしも積極的に希望したものではなさそうです。(女性・有配偶・15~64歳・全国全産業の数字を抜き出し、計算しました。)

しゅふJOB総研が働く主婦を対象に行った2018年のアンケート調査によると、77.2%が「短時間正社員で働いてみたい」と回答。「100%仕事に時間を使えるなら最も望ましい働き方は」という問いには、「フルタイム正社員」と回答した人が62.2%に上ります。

「条件を考えるとパートやアルバイトを選ばざるを得ないけれど、できることなら正社員で働きたい」という主婦の思いがうかがえます。

主婦が仕事復帰する際に求めるものは?

QOOLキャリアの利用者には、出産後の環境変化により、自身の働き方やキャリアを見直して登録する人が多いそうです。転職を希望する理由は様々ですが、利用者の悩みや働き方へのニーズを整理すると、次のような状況が浮かび上がります。

  • 育休から復帰したら以前のようにキャリアアップが難しくなってしまった
  • 子育てしながらでもキャリアを諦めたくない
  • キャリアプランを見直したい
  • 出産後時短でこれまでと同じ成果を出しているのに評価されない
  • 子供のお迎え時間を考えると通勤時間が長い
  • 子育てをしながら働き続けにくい企業文化、子育てへの理解不足がある

企業が主婦の求職者に求めるものは?

一方企業側には、「子育て中社員も、他の社員と同様に活躍して欲しい」というニーズが伺えます。QOOLキャリアの登録企業でも、子育て中だからゆるく働いて欲しい、という理由で求人をしている企業はほとんどないのだとか。

また近年は、価値観や能力、経験など子育て中を含めた社員の多様性を重視する企業、子育て中だからこそ身につくマネジメント能力やタスク管理能力などを積極的に評価する企業なども、増えてきています。

「子育て中でも活躍して欲しい」ということは、「これまでと変わらない働き方をして欲しい」ということではありません。様々な調査からも、時間に制約のある社員が活躍するためには、長時間労働を前提としない働き方と、時間当たりの生産性を評価する人事制度が重要であることが分かってきています。

QOOLキャリアの登録企業は、社員個々の状況に合わせて対応する柔軟な文化を持つ企業が多く、時短求人が多いことも特徴だそうです。時短勤務では難しい職種もありそうに思えますが、ビーボ・酒井さんのお話では、職種に大きな偏りはなく時短営業職などの求人もあるとのことでした。

参考

労働力調査:1-4-4 雇用形態, 配偶関係, 年齢階級別雇用者数(2013年~)|e-Stat

働く主婦が本当に望む働き方とは?~しゅふJOB総研調査~|bstyle

矢島洋子(2017年)「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」季刊『政策・経営研究』Vol.4, 特集「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」pp.1-15

新井みち子(2017年)「仕事と子育ての両立支援」季刊『政策・経営研究』Vol.4, 特集「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」pp.16-22

尾島有美(2017年)「短時間勤務制度利用者のマネジメントとキャリア形成」季刊『政策・経営研究』Vol.4, 特集「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」pp.56-67

QOOLキャリアの成功事例に見る仕事探しのコツ

実際に転職活動を進める際、どういったポイントが成否を分けるのでしょうか。QOOLキャリアを通じて転職に成功したお二人の話を伺いました。

成功事例①:Aさん(不動産関係・20代後半)の場合

0歳と2歳の2人の子育てをしながら転職を叶えたAさん。育休から復帰すると、職場環境に変化があり、キャリアアップが難しい状況になってしまっていたそうです。上司とも相談し、状況の打開方法を探りますが、検討の末、転職を決意します。

子育て中の転職は初めての経験だったため、いくつかのエージェントに登録して活動を進めますが、企業とのマッチングに難航。「希望する内容の仕事がしたい」「時短勤務でキャリアアップしていきたい」などAさんの求める条件では、なかなか見つからなかったそうです。

転職を諦めようか悩む中で、QOOLキャリアに登録。もしダメだったら転職活動を終える、と決めて臨んだ紹介企業との面接で、お互いの条件がマッチし、転職が成就しました。

成功事例②:Bさん(クリエイティブ系・30代後半)の場合

クリエイティブ系の会社で働くBさん。残業が当たり前の業界であったこともあり、第一子出産後、正社員から契約社員へと雇用形態をチェンジしました。それでも子育てとの両立が難しく、一時職を離れます。

再度正社員として働きたいという思いは強かったものの、残業が難しいという条件がネックになり、就職活動は難航します。悩んでいた矢先、QOOLキャリアに登録。条件がマッチする企業と出会い、再就職を叶えました。

企業とうまくマッチングするには

転職の成功要因は、「子育て中の人材に理解のある企業とコンタクトできるかどうか」が大きいそうです。時短勤務希望である、子供が幼いため突発的なアクシデントも起こり得るなど、子育て期には様々な制約要因がありますが、それらの事情をネガティブに捉えない企業は、実は少なくありません。まずは、ファーストコンタクトを得ることです。

ビーボ・酒井さんは「自分自身で可能性を狭めないで」と呼びかけます。子供が小さいから、時短希望だからと、希望職種を諦めたり求職範囲を狭めたりする求職女性が多いそうですが、実際に動いてみると思い込みに過ぎなかった、ということもよく起こるのだとか。自分の思いに正直になることが、転職活動を進める第一歩です。また、キャリアカウンセリングサービスなどの利用も、自身のキャリアの棚卸しのためには有効、とのことでした。

仕事と家庭、両立の時間づくり:ビーボ・田中さんの例

QOOLキャリア立ち上げのきっかけとなったのが、出産後に中途採用でビーボ入社、現在は経営管理室で経理・財務のマネージャーとして働く田中香保里さんの存在です。田中さんが両立の壁をどのように乗り越えてきたのか、そのストーリーを伺いました。

結婚退職から出産、アルバイトで復職

大学院卒業後、一部上場企業をはじめ複数の企業で、経理としてキャリアを積んできた田中さん。自身の成長や経験を考えると、とても恵まれた環境だったと振り返ります。しかし30代に入り、年齢や子供を持つことなどを考え始め、結婚を期に一度家庭に注力しようと、退職を決意。その後、男の子にも恵まれました。

出産後はまた働きたいと考えていたため、仕事の感覚を忘れないためにも、知り合いの会社で経理のアルバイトを始めます。転職活動と保育園活動も同時進行。子育てをしながらの転職は未経験のため、まずは動いてみなければ分からない、現在の自分の市場価値も把握したい、という思いがあったそうです。

正社員でのビーボ入社からQOOLキャリアが始動

仕事を続けたい、キャリアを伸ばしたいという思いを持ちながら、初めての子育てで仕事との両立に不安も感じていた田中さん。いくつかの企業との出会いの中から、最終的にビーボ入社を決意します。入社の決め手は、面接担当者の「時短勤務にも、子どもの熱が出た時に早退したとしても、嫌な顔をする人はない。これだけは絶対に約束する」「だからと言って、子供がいるからという特別扱いもしない」という言葉だったそうです。

社内で子育て中社員の転職経験をシェアしてみると、田中さんだけでなく、子育て中や時短希望などの条件で、書類が通らない、面接を受けられないなど間口が狭まっている現状がありました。企業側から見ると、「子育て中」という属性で一律判断することで、キャリアを備えた優秀人材を採用できない状況。そんなお互いの機会損失をどうにか解決できないかと、産後女性に特化した転職サービス「QOOLキャリア」が立ち上がります。

時間の制約と両立のつらさをどう乗り越えたか

時短勤務をしながら、経理基盤の構築やリファラル採用への貢献など成果を上げていく田中さんですが、入社して最初の頃は、初めての子育てと慣れない環境での仕事でいっぱいいっぱいだったと語ります。予想はしていたもの、子供が熱を出すのは思った以上だったとか。体力的にも精神的にも課題は山積みでした。

田中さんが前に進めたのは、周囲の支えのおかげだと言います。毎日手一杯な田中さんの様子に、同僚は「大丈夫?」と声をかけてくれ、時にサポートしてくれたそうです。子供、そして働くことを応援してくれるパートナーも、田中さんを支えてくれる大きな存在でした。

どちらも大事にしたい「家族」の時間と「仕事=私」の時間

働く理由とは何か、ということを突き詰めて考えた時、田中さんは「わたしの場合は、自分の人生を豊かにする為なんだと思いました」と語ります。働くことで得られる課題への挑戦や達成感、その対価で家族と旅行に行くこと、一緒に過ごす時間で発見できる子供の成長、それらすべてが、田中さんの人生を豊かにします。

仕事の時間も、とても大切な自分だけの時間だと話す田中さん。リモートワークや子連れ出勤など、子供と共に仕事をするスタイルも最近よく話題に上りますが、「オンオフの切り替えが不器用なわたしにはあまり向いていないかな」と考えています。

家族との時間も、同じように大切な時間です。田中さんがいつも心に置いていることは、自分の仕事が原因で、パートナー・息子・自分の誰か一人でも幸せでなくなったらダメだ、ということ。以前パートナーとの間で、お互いが自分の仕事のことしか考えなくなってしまい、家族のバランスが崩れた時期があったそうです。その時とことん話し合い、家族としてやっていくためにはみんなが笑顔でいる必要があるよね、と再確認。「仕事=自分の時間」を大事にしつつ、家族みんなが笑顔で幸せでいられるために、どう時間を使うかということを常に考えるようにしているそうです。

まとめ

「家族みんなが幸せでなければ意味がない」という、田中さんのきっぱりとした言葉が印象的でした。家族のことを考えた時、自分のキャリアを諦めたり、思いに蓋をしたりする女性は多いかもしれません。ですが家族と仕事は必ずしもトレードオフではなく、家族の幸せには自分の幸せも含まれるはずです。

酒井さんも、転職活動をする女性たちに「まずはご自身の思いに正直になって」とエールを送ります。実際に動いてみて難しいと感じたなら、そこで初めてどの条件を譲れるか考えればいい。動く前から理想を諦めるのはもったいない。自分に正直に、欲張りになること。それが、望む働き方を叶える最大のポイントなのかもしれません。

参考

QOOLキャリア

労働力調査:1-4-4 雇用形態, 配偶関係, 年齢階級別雇用者数(2013年~)|e-Stat

働く主婦が本当に望む働き方とは?~しゅふJOB総研調査~|bstyle

矢島洋子(2017年)「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」季刊『政策・経営研究』Vol.4, 特集「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」pp.1-15

新井みち子(2017年)「仕事と子育ての両立支援」季刊『政策・経営研究』Vol.4, 特集「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」pp.16-22

尾島有美(2017年)「短時間勤務制度利用者のマネジメントとキャリア形成」季刊『政策・経営研究』Vol.4, 特集「企業におけるダイバーシティ推進と働き方改革」pp.56-67

この記事をかいた人

菊池とおこ

北海道大学文学部行動科学科卒。行政系広告代理店、医薬系広告代理店、地方自治体の結婚支援事業担当などを経て独立、ライターに。女性のライフイベントと生き方、働き方、ジェンダー教育などが主な関心分野。大学院進学を視野に入れて地元大学のゼミ(ジェンダー・スタディ)に参加中。趣味は音楽、中学より本格的に合唱を始め、現在も合唱団に所属。ネコのおかあさん。子供と接する時は、自由人の叔父ポジション。