もくじ
イエナプラン校ならではのユニークな取り組み
第4回では、イエナプラン実践校の理念や具体的な活動、そして学びの様子について紹介しました。最終回となる第5回では、その活動を支えるユニークな取り組みを紹介し、全体の総括をしていきたいと思います。
学校ごとのコンテンツ/ツール
第4回の記事で紹介したようなイエナプランの教育スタイルを補助するツールも、学校ごとにさまざまでユニークなものが開発されていました。いくつかご紹介しましょう。
■サイコロ
自分の現在の状態を色と記号で表すもので、赤は「集中しているから話しかけないでほしい」、黄色は「質問があったら受け付けるよ」、緑は「なんでもOK」、”?”は「助けが必要」を意味しています。
サイコロでコミュニケーションを取る子供たちと先生。先生用のサイコロは少し大きめ。
これがあることで、子供たちが分からない問題があっても、?の面を表示して次の問題に進むことができ、学習効率が上がります。先生も子供たちに常に引っ張られるということがなくなり、余裕を持って子供たちの学習をサポートすることができます。
また自分の意志を口頭で表現するのが苦手な子も、このサイコロを使うことで、自分の状態を他の子たちに伝えることができるというコミュニケーションの観点からも非常に優れたツールでした。
■5本の指
教室の壁にある子供たちの行動指針で、親指から順番に、「まず自分で考えよう」「隣の人に聞いてみよう」「班の人に聞いてみよう」「クラス全体に聞いてみよう」「それでも分からなかったら、先生に聞いてみよう」という内容になっています。サイコロと同様に、先生を支援するツールでもあり、また子供たちにとっても、本当に自分で解決できないのか、もう一度考えることを促す素晴らしい指針であると思いました。
行動指針となる「5本の指」ルール
■学校経営ビジョンマップ
学校の現状の課題や、中長期的なビジョン、そしてそのための具体的なアクションを一枚のボードにまとめたもので、校長先生が中心となり、職員たちみんなで力を合わせて作成したと話されていました。
日本の小学校にも学校経営指針は各校に存在しますが、このようにビジュアル化することで、先生たちだけではなく、学校の運営に関わる全ての人にビジョンが共有され、それを実現することがよりやさしくなります。このように、学校経営に関しても、20の原則の達成のために、各校で独自の取り組みがなされていました。
学校経営ビジョンマップのボード。作成には半年を要したそう
「リフレクション」としての成績表
ある子供の成績表を見せてもらうと、そのファイルの中には多様なシートがあり、半分以上は子供自身が記入したものでした。その学期で自分が頑張ったと思う指標をカラフルに塗りつぶすページや、学習到達度を自らチェックしたり、活動写真をまとめたり、自分の性格をチェックしたりするシートがありました。また、友達からのコメントや、親からのメッセージといったシートも。そして最後の方にようやく、いわゆる成績表のようなものが見つかり、そこにはテストの点数を全国平均と比較したものが記載されていました。
この成績表の意図に関して先生に尋ねると、「成績表はあくまでもリフレクション(内省)のツールであって、子供たちをランク付けするものではない。当然点数による評価もするけれど、それはその子供が自分自身を振り返り、次のセメスターをどのように過ごしていくかの計画を立てる一つのヒントでしかない」と話されていました。
子供たちが使う成績表の一つ。塗り方にも個性が表れる
親から子供への手紙
イエナプラン実践校を視察して
イエナプランは「考える力」という、人間として生きる上で全ての人に備わっていて、かつそれが奪われることなく、時代の変化にも対応した能力を伸ばす教育である、などの印象を受けました。これを伸ばすためのコンテンツや仕組みも敷かれているため、基本的には教えるのではなく支えるというスタンスで、自身でのリフレクションや、第三者からのフィードバックを大切にしていました。
また、学校運営組織が変化に柔軟な体制であるため、乗り越えるべき課題が出てきたとしても、新しい挑戦をしていきながら、対応していけることができるのだと思いました。教師、子供、仕組みのどれをとっても完成度がとても高く、コンセプト型教育の完成された形の一つであると感じました。
オルタナティブ教育を、日本の教育にどう取り入れるか
2つのコンセプト型のオルタナティブ教育を見て、率直に感じたことは、そのまま日本に持ち込むことは難しいということです。どちらの教育も、一つのコンセプトから始まり、それぞれの国や地域の文化や風土と共に発達してきたものであるため、そのまま輸入しようとするとどうしても無理が生じてしまいます。
大切なのは、日本でも同じように教育を育てていくプロセスを踏むことであり、これらの先進的な教育が、どのように発展していったのか、仮説と検証サイクルの回し方や、変化し続けることができる組織づくり、利害関係者との対話の重ね方などを学ぶことだと感じました。
これらに関しては、正直、今回の訪問だけでは全てを見ることはできませんでしたが、コンセプトを基にそれをさまざまな面で実装した一つの教育モデルを見られたことは非常に大きく、感覚的ではありますが、実現までの道のりのイメージを持てたことが収穫となりました。
また別の観点では、ツールやコンテンツなどの一部はそのまま持ち込んでも、すぐに効果が出るものもあると感じました。例えば、イエナプランの状態表明サイコロなどは、私たちの教室の授業で使用してみたところ、使い始めてからすぐに効果が出て、子供たちの学び合いの機会は格段に増えました。
また、子供たちの変化の記録に関しても、レッジョのドキュメンテーションからインスピレーションを受け、教室独自の記録資料を作成して試験的に運用していますが、こちらもスタッフ同士の振り返りや、情報共有の面で、大きな効果を生んでいます。
そして、教育設備に関しては、学校現場で実践することが難しくても、家庭の中では再現できるものが多いのではないかと思いました。特にレッジョエミリアのマテリアルなどは、学校では再現が難しくても、家庭であれば、小規模にはなりますが比較的容易に実現可能かと思います。
3rdschoolでもサイコロを使用
レッジョ風、記録資料
さいごに
今回の視察を通して、私たちは改めて、子供たちの持つ無限な可能性に引きつけられました。そしてその可能性は、世界中のどの地域、どの民族だとしても変わらないものだということを実感しました。
全ての人が異なった個性と才能を授かっていると私たちは考えていますが、やはりどのような環境で学び育つかということは、その能力を開発することができるかどうかという点で、大きな要素となります。
この教育という広くて抽象的なテーマに関して、普遍的な答えを見出すことは難しいのかもしれません。しかし、少なくとも今、この日本の教育が変化しようとしている局面において、私たちが思い描ける限界の、その少し先を見ようとしながら、できるだけ質の高い実践と研究を続けていきたいと思います。
今後とも、3rdschoolの活動を応援してくださるとうれしいです。
3rdschoolとは
「子供たちの個性と才能を見つけ伸ばす」をテーマに掲げ、2017年に立ち上げた教育事業会社です。ITものづくりをツールとして使用しながら、学校やご家庭とは違ったアプローチで子供たちの能力を引き出していきます。
子供たちの個性や才能にアプローチする方法を続けて探求しており、国内外の先進的な取り組みをしている教育機関に訪問し、可能な限り直接見て学ぶことを大切にしています。
そうして学び、感じたことを咀嚼し再構築して教室で試してみる。これを繰り返しながら、これからの時代の、新しい教育手法を生み出していきたいと考えています。
3rdschool ホームページ
https://3rdsch.jp/
3rdschool 代表者ブログ
https://note.com/3rdschool
参考
・「小さなイエナプラン (Der Kleine Jena-plan)」ペーター・ペーターゼン
・「Reggio Children」https://www.reggiochildren.it/identita/loris-malaguzzi/?lang=en
・「日本イエナプラン教育協会」http://www.japanjenaplan.org/index.html