ビタミンB12欠乏症②:神経障害
貧血とは独立して、しばしば貧血の症状を伴わずに、神経障害が起こることがあります。症状や原因、治療法などについて詳しく見ていきましょう。
どんな症状が起こる?
神経に損傷がある人では、腕よりも脚により早く、より高い頻度で影響が出ます。手足にチクチクした感覚が生じたり、感覚が失われたり、腕や足がどの位置にあるか分かりにくくなったりします。症状が進むと筋力の低下や反射が失われることもあり、歩行が困難になります。
原因は?なりやすい人は?
ビタミンB12が欠乏する原因は、貧血の場合と同じです。神経障害は特に60歳以上の高齢者などで起こりやすく、進行するとせん妄やパラノイア、認知症などの精神機能障害に至ることもあるといわれています。
診断と治療方法は?
診断は貧血の場合と同じく、血液検査を行います。ビタミンB12の欠乏が見つかっても、高齢者の場合は通常それほど深刻な原因があると考えられないので、ここで診断を決定し、治療に入ります。神経の損傷には、筋肉注射でビタミンB12を投与します。ビタミンB12が正常値になるまで数週間にわたって行い、その後は根本原因が改善されるまで無期限に続けられます。しかし、神経の損傷による重い症状は回復しない可能性もあります。
参考
ビタミンB12不足は認知症を引き起こす?
ビタミンB12と認知症の関係については、貧血や神経障害ほどはっきりしたことが分かっていません。ビタミンB12の欠乏と認知症の発症にはどんな関係があるのか、認知症の治療にビタミンB12は効果を発揮するのか、現在得られている研究知見をご紹介します。
現在分かっているビタミンB12と認知機能の関係
2011年に福井大学のグループが発表した『葉酸・ビタミンB12欠乏症による認知症発症機序の解明』は、認知症を起こす危険因子とビタミンB12の関係、ビタミンB12補充療法の有効性などを探った論文です。
葉酸やビタミンB12の欠乏は、アルツハイマー病の危険因子である高ホモシステイン血症を引き起こすと考えられています。福井大学のグループは、ホモシステインが神経原線維変化を促進させることを実験で確かめました。また、認知機能の低下と高い血中ホモシステイン値を示す葉酸・ビタミンB12欠乏症の患者にビタミン補充療法を行ったところ、認知機能の改善を見ると同時に、血中のホモシステイン値が正常に戻ることを確認しました。
この結果は、ビタミン補充療法がアルツハイマー病の発症を遅らせたり、未然に防いだりできる効果を持つかもしれないことを示唆します。認知症の治療可能性に光を当てる研究成果のひとつとして、さらなる研究の進展への期待を述べて論文を締めています。
参考
『葉酸・ビタミンB12欠乏症による認知症発症機序の解明』│CORE
ビタミンB12補充療法の効果はまだ結論づけられていない
2018年の論文『治療可能な認知症-血液疾患-』も、認知症のビタミンB12補充療法にポジティブな効果を見いだしている論文です。認知機能の低下にはさまざまな内科系疾患が潜んでいることがあり、血液疾患領域で認知症治療が期待できる代表的な疾患として、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血を挙げています。
論文は、高齢者において潜在的なビタミンB12の欠乏が存在していることを指摘。認知症患者に対し血中のビタミンB12の値を測定してみること、補充療法で認知機能の改善が見られるかどうか観察してみることを勧めています。
ただし、これまで健康な人や認知症のある高齢者を対象に行われた臨床試験において、葉酸やビタミンB6、ビタミンB12などのビタミン群の予防的な補充が認知機能の改善や悪化防止などに有効性を持つかどうかについては、一定の結論が得られていないことにも言及しています。認知症のビタミンB12補充療法は、臨床では効果の手ごたえが得られつつも、まだ確立したものではないといえるでしょう。
参考
ビタミンB12欠乏症予防のために
ビタミンB12の1日の摂取基準量
ビタミンB12の欠乏を日ごろから予防するために、1日にどれくらいの量を摂取すればいいのでしょうか。厚生労働省「日本人の食事摂取基準」が、1日に必要な摂取基準量を示しています。年齢などにより基準量は若干異なります。下記の表にまとめましたので、ご参考にしてください。
■ビタミンB12の食事摂取基準(µg/日) ※µg(マイクログラム)=mgの1000分の1
男性・女性 | |||
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 |
0-5(月) | – | – | 0.4 |
6-11(月) | – | – | 0.5 |
1-2(歳) | 0.7 | 0.9 | – |
3-5(歳) | 0.8 | 1.0 | – |
6-7(歳) | 1.0 | 1.3 | – |
8-9(歳) | 1.2 | 1.5 | – |
10-11(歳) | 1.5 | 1.8 | – |
12-14(歳) | 1.9 | 2.3 | – |
15-17(歳) | 2.1 | 2.5 | – |
18-29(歳) | 2.0 | 2.4 | – |
30-49(歳) | 2.0 | 2.4 | – |
50-69(歳) | 2.0 | 2.4 | – |
70-(歳) | 2.0 | 2.4 | – |
妊婦(付加量) | +0.3 | +0.4 | – |
授乳婦(付加量) | +0.7 | +0.8 | – |
推定平均必要量:摂取不足にならないための必要量。この量を摂取すれば、半数の人が必要量を満たすことができると推定される。
推奨量:推定平均必要量を補助する目的で設定したもの。この量を摂取すれば、ほとんどの人が充足すると考えられる。 目安量:上記2つを推定できない場合の代替指標。一定の栄養状態を維持するのに十分な量で、これ以上摂取している場合は不足のリスクはほとんどない。 |
(日本人の食事摂取基準(2015年)の概要|厚生労働省より筆者作成)
どんな食品から摂ればいい?
ビタミンB12はどういった食品に多く含まれるのでしょうか。文部科学省が提供する食品成分データベース内の「食品成分ランキング」から、ビタミンB12含有量が多い食品トップ10を調べてみました。
■ビタミンB12:含有量トップ10
順位 | 食品名 | 成分量(100gあたりµg) |
1 | めふん※1(白鮭) | 8.81 |
2 | しじみ(水煮) | 3.12 |
3 | ほしのり(あまのり) | 2.21 |
4 | しじみ(生) | 2.09 |
5 | 田作り(かたくちいわし) | 1.82 |
6 | あさり(水煮缶詰) | 1.72 |
7 | あゆ(内蔵・生・天然) | 1.61 |
8 | あげまき※2(生) | 1.46 |
9 | 赤貝(生) | 1.32 |
10 | 味付けのり(あまのり) | 1.25 |
※1:鮭の腎臓の塩辛。
※2:二枚貝の一種。アゲマキガイ|市場魚貝類図鑑参照のこと。
(食品成分ランキング|食品成分データベース(文部科学省)より筆者作成)
ビタミンB12は、しじみやあさり、かきなどの貝類、レバーなどに多く含まれます。そのほか食品成分ランキングには、のりやいわし、魚介の内蔵などが上位にランクインしています。毎日の献立に食材として取り入れるなら、しじみやレバーが利用しやすいでしょう。ビタミンB12を多く含む食品やそのレシピについては、次の記事でも詳しくご紹介しています。そちらも参考にしてみてください。
参考
疲労回復のための栄養素の効果的な摂取|東京医科大学公衆衛生学分野
ビタミンB12が不足しがちな人、気をつけたい人
欠乏症の解説で述べたように、ビタミンB12欠乏症を起こしやすい人は、完全菜食の人や高齢者、胃の切除をしたことがある人、腸の疾患を持ってる人や糖尿病で特定の薬を服用している人などです。立ちくらみや疲れやすさなど気になる症状がある人は、軽く考えずに一度病院を受診しましょう。貧血を甘く見てはいけません。
ビタミンB12を多く含むレバーなど、動物性の食品をあまりとっていない自覚がある人も注意しましょう。ダイエット中の人も高齢の方もバランス良い食事を心がけ、偏った食事をしないことが大切です。
まとめ
欠乏症の症状や治療予後について読んでいると、少し怖い気持ちになってしまいます。ささいな症状の陰に重い病気が潜んでいることもあります。そこは軽視してはいけませんが、食品の含有量や1日に必要な摂取基準量を比べてみれば、少し食事に気を使えばクリアできない量でもないという気がしませんか?
厚生労働省が「平成29年 国民健康・栄養調査報告」で報告している「日本人の平均的なビタミンB12摂取量」も、基準量を上回る値です。まずは動物性と植物性食品をバランス良く取り入れた食事から、毎日の生活の中で健康な体を目指しましょう。
参考
偏食により多種のビタミン欠乏を伴い巨赤芽球性貧血と多発性ニューロパチーを生じた1例│宮崎県医師会
悪性貧血に対し,経口的ビタミンB12投与が著効した橋本病合併高齢者糖尿病の1例│J-STAGE