現代人に増加する「ビタミンAの潜在性欠乏症」とは?
体内のビタミンAが減ると「半健康状態」に
日本をはじめ、先進国では食事内容の豊かさから、ビタミンA欠乏症はほとんど見られません。しかし、薬剤師の福井透氏は「潜在的にわずかな欠乏状態にある人は非常に多い」と著書『薬剤師がすすめる ビタミン・ミネラルの使い方』(丸善出版)で警鐘を鳴らしています。
ビタミンは体内で合成できないため、無理なダイエットや不規則な食生活、ストレス過多などからビタミン不足になるケースは少なくありません。ビタミンAもほかのビタミンと同様に不足すると日常的に体の不調を引き起こします。明らかな病気ではないけれど、日常的に体の不調がある「半健康状態」の場合、「潜在性ビタミン欠乏症」であることも十分考えられます。
要注意!ビタミンA不足の初期症状
ビタミンの潜在性欠乏症の場合は、ビタミンの種類によって初期症状が異なります。ここでは、ビタミンA不足による初期症状をご紹介します。
<ビタミンA不足による初期症状>
- 疲れやすい
- 顔や髪に艶がない
- 薄暗いところで目が見えにくい
- 肌が乾き荒れる
- 風邪を引きやすい
- 上腕の外側が鮫肌、鳥肌
これらはあくまで初期症状の一例で、症状の出方や程度には個人差があります。いずれも日常生活で不調を感じやすいものばかりです。食生活を振り返ってみて、ビタミンAが不足しているようなら積極的に摂取するといいかもしれません。あまりに長く不調が続くようなら、専門医の診察を受けましょう。
ビタミンAはどれくらい摂取すべき?
それでは、ビタミンAはどれくらい摂取するべきなのでしょうか。厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」より、年齢・性別別にご紹介します。
【年齢別】日本人男性の食事摂取基準
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」は、健康の維持や生活習慣病予防を目的として、健康な個人または集団を対象に行っている調査です。
この調査の摂取基準数値は「1日当たりのレチノール活性当量」を示しています。
ビタミンAの摂取基準には、レチノールだけでなくビタミンAの前駆体すべて合わせて、レチノール活性当量(RAE)として算出した値を用います。
(引用元:ビタミンAの働きと1日の摂取量|健康長寿ネット)
<年齢別・日本人男性の1日当たりのビタミンA食事摂取基準>※単位はµgRAE
年齢 | 推定平均必要量 ※1 | 推奨量 ※1 | 耐容上限量 ※2 |
0~5(月) | - | - | 600 |
6~11(月) | - | - | 600 |
1~2(歳) | 300 | 400 | 600 |
3~5(歳) | 350 | 500 | 700 |
6~7(歳) | 300 | 450 | 900 |
8~9(歳) | 350 | 500 | 1,200 |
10~11(歳) | 450 | 600 | 1,500 |
12~14(歳) | 550 | 800 | 2,100 |
15~17(歳) | 650 | 900 | 2,600 |
18~29(歳) | 600 | 850 | 2,700 |
30~49(歳) | 650 | 900 | 2,700 |
50~69(歳) | 600 | 850 | 2,700 |
70以上(歳) | 550 | 800 | 2,700 |
※1 プロビタミンAカロテノイドを含む
※2 プロビタミンAカロテノイドを含まない
(日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要,P16より筆者作成)
推定平均必要量は、50%以上の人が必要量を満たす量です。推奨量はほとんどの人が満たしている量となるため、推奨量を目安に摂取するといいでしょう。なお、ビタミンAには過剰摂取による健康被害があるため、耐容上限量が設けられています。
【年齢別】日本人女性の食事摂取基準
日本人女性のビタミンA食事摂取基準は以下のとおりです。
<年齢別・日本人女性の1日当たりのビタミンA食事摂取基準>※単位はµgRAE
年齢 | 推定平均必要量 ※1 | 推奨量 ※1 | 耐容上限量 ※2 |
0~5(月) | - | - | 600 |
6~11(月) | - | - | 600 |
1~2(歳) | 250 | 350 | 600 |
3~5(歳) | 300 | 400 | 700 |
6~7(歳) | 300 | 400 | 900 |
8~9(歳) | 350 | 500 | 1,200 |
10~11(歳) | 400 | 600 | 1,500 |
12~14(歳) | 500 | 700 | 2,100 |
15~17(歳) | 500 | 650 | 2,600 |
18~29(歳) | 450 | 650 | 2,700 |
30~49(歳) | 500 | 700 | 2,700 |
50~69(歳) | 500 | 700 | 2,700 |
70以上(歳) | 450 | 650 | 2,700 |
妊婦(付加量)
初期・中期 後期 |
+0+60 | +0+80 | -- |
授乳婦(付加量) | +300 | +450 | - |
※1 プロビタミンAカロテノイドを含む
※2 プロビタミンAカロテノイドを含まない
(日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要,P16より筆者作成)
妊娠中のビタミンA不足は赤ちゃんの発育不全を、ビタミンAの摂りすぎは赤ちゃんの先天異常のリスクが高まるといわれています。妊娠初期・中期は年齢に応じた推奨量を摂るように心がけましょう。
貧血予防に役立つレバーはビタミンAを多く含んでいるため、毎日大量に食べると過剰症の恐れがあります。ビタミンAは過剰症の心配のないベータカロテン(緑黄色野菜や果物など)から摂取するといいでしょう。
参考
【医師監修】妊婦はビタミンAの過剰摂取に注意! その理由と上手な摂り方|マイナビウーマン子育て
ビタミンAのおすすめ摂取方法
「平成29年国民健康・栄養調査報告」によると、日本人はビタミンAを主に緑黄色野菜から摂取していることが分かりました。ビタミンAを多く含む食品は、レバーやうなぎ、卵などの動物性食品や、チーズ、牛乳などの乳製品などがあります。ここでは、ビタミンAのおすすめの摂取方法をまとめました。
食材は加熱調理で吸収率アップ
脂溶性のビタミンAには次のような特徴があります。
- ビタミンAは油脂に溶けやすい
- 水洗いなどで栄養成分が失われない
- 加熱調理による栄養成分の損失が少ない
- 油に溶けた状態だと吸収率が高まる
例えば、ビタミンA(ベータカロチン)が多く含まれるホウレンソウを、ゆでる(3分間)、蒸す(5分間)、いためる(3分間)と調理法を変えて、そのカロチン減少率を比較したところ、それぞれ10%、5%、3%という結果でした。
つまり、ベータカロチンを有効に摂取するためには、油いためが一番効率が良いことが証明されています。
(引用元:ビタミン有効利用のこつは油いため?|HelC+)
さらに、ほうれん草の場合は、レチノールを多く含むバター炒めで食べると、「加熱調理で吸収力アップ+レチノール補給」にもなり、ビタミンAを効率よく摂取することができます。
サプリメントを上手に使う
ビタミンAはバランスの良い食事を摂っていれば、必要量は満たせると考えられています。しかし、食欲不振や病気で食事がとれない場合などは、サプリメントを活用してもいいでしょう。ただし、サプリメントに頼りすぎるのは危険です。ビタミンAは摂りすぎると体に悪影響がありますので、必要量を守りましょう。病気がある人の場合は、サプリメント利用前に必ず医師に相談してください。
危険!ビタミンAの過剰摂取は毒になる
ビタミンAには、摂り過ぎることで悪影響を及ぼす「ビタミンA過剰症」があります。
ビタミンAは肝臓に貯蔵されますが、過剰摂取すると肝臓にたどりつくまでの間に、体に対してさまざまな毒性をもたらし、吐き気や頭痛、発疹、下痢などの症状が現れます。
(引用元:吉川敏一(2012年)『ビタミン・ミネラルの本』土屋書店,P43)
そのため、ビタミンAには「耐容上限量」が定められています。とはいえ、過剰症の心配があるのは、レバーなどの動物性レチノールやサプリメントからの摂取です。緑黄色野菜や果物などに含まれるカロテノイドには害はないため、過度に不安になることはないでしょう。
女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘氏は、以下のように述べています。
「焼き鳥のレバー1本(レバー30g)は4200μgのレチノールを含み、耐容上限量の2700μgを軽く超えます。しかし、耐容上限量は習慣的な摂取量(例えば1カ月の平均)でみるものなので、ある1日で超えたからといって問題はありません」
(引用元:不足気味、でも「とりすぎ注意」なビタミンA|日経Gooday)
まとめ
ビタミンA欠乏症は、現代の日本ではほとんど見られません。しかし、欠乏状態が続くことで「疲れやすい」「風邪を引きやすい」などの症状が出ることが分かっています。ビタミンAには過剰症の恐れがあるため、サプリメントからの摂取は成分や含有量をよく確かめてください。子供の場合は食事からの摂取が一番です。緑黄色野菜や果物には過剰症の恐れはないので、積極的に摂るようにしましょう。
参考
ビタミンA|「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
ビタミンA(レチノール活性当量)|ビタミン|栄養成分百科|グリコ
不足気味、でも「とりすぎ注意」なビタミンA|日経Gooday