「もう家事に疲れた…。」共働きの家庭ではこのような声が多くあるのではないでしょうか? 上手に家事を分担していかなければどちらかに負担がかかりすぎたり、家庭がうまく回らないなど何かと大変なことがあるでしょう。今回はそんな問題を抱えた共働き夫婦に紹介したいノウハウです。
もくじ
共働きの家事、どうしてこんなに疲れるの?
結婚すると急に増える女性の家事時間
結婚前に一人暮らししていた時も家事はしていた筈なのに、どうしてこんなに負担を感じるのかと疑問に思った方もいるのではないでしょうか。その謎を解くヒントは、家事にかける時間にあるかもしれません。結婚による家事関連時間の変化を、男女別にご紹介します。
総務省統計局『平成28年社会生活基本調査』(P4、図2-3)のデータによると、未婚男性の家事関連時間は1日平均29分、既婚男性で49分。未婚女性は1時間1分、既婚女性だと4時間55分になります。結婚することによって男性の家事時間は20分しか増えませんが、女性の家事時間は約4時間増加するのです。つまり、結婚後に増えた家事は、主に女性だけが担当していることになります。
仕事と家事の時間をトータルすると?
「妻の家事時間が長いのは、夫の方が仕事の時間が長いからでは?」と推測する人もいるかもしれません。同じく総務省統計局『平成28年社会生活基本調査』(P40-41、第6表)から、共働き家庭の妻と夫の生活時間をご紹介します。
仕事などにかける時間は、夫が8時間10分、妻が4時間56分と、確かに夫の方が3時間強長くなっています。しかし仕事などの時間と家事関連時間をトータルで見てみると、夫が8時間49分、妻が9時間14分と、妻の方が25分多いです。その分妻は何の時間を削っているかというと、睡眠時間と余暇やくつろぎの時間です。睡眠時間は18分、余暇やくつろぎの時間は37分、それぞれ夫より短くなっています。
共働き家庭の家事疲れは、妻の総労働時間の長さと余暇時間の短さにあると、言い替えられるのではないでしょうか。
収入と家事分担の間のモヤモヤ
家計を支えているから家事負担はしなくていい?
では時間を公平にシェアすれば解決か、というと、また別の不公平感が出てきます。よく聞かれるのが、「夫の方が妻よりも多く稼いでいるのに、同じだけ家事をやらなければならないというのは納得できない」という話です。では、家事は収入の額に応じてシェアすべきなのでしょうか。
家事などの無償労働を金額換算した最初の政府試算が、1996年の経済企画庁(現内閣府)による『無償労働の貨幣評価について』というレポートです。これによると、1991年における日本の家事労働の評価額は、67兆~99兆円、GDPの14.6%~21.6%という規模に上ります。
最近では、白河桃子/是枝俊吾(2017年)『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(毎日新聞出版)が家事労働の経済価値を試算。それによると、専業主婦の正当な給料相当額は19万4,000円、子供が生まれれば37万1,336円になります。
つまり多くの家庭では、それだけの額を主婦の働きによって「支出せずに済ませている」ということです。あるいは、主婦は家事労働によってそれだけの額を「家計に還元している」とも言えます。この試算をベースに夫のフェアな家事育児分担率を導き出すと、夫婦の年収差が200万円あるとき、夫は家事育児の41.1%を分担すべきである、という結果になります。
妻が働いたら夫は家事をするの?
逆に、妻が外で働きだしたり収入が増えたりしたら、夫は家事の分担を増やすのでしょうか。その問題は、家族社会学や労働経済学における家事分担研究の大きな論点でした。
家事分担研究における主な仮説は、
- 時間に余裕がある方が多く負担するという「時間制約仮説」
- 稼ぎの少ない方が多く負担するという「相対資源仮説」
- 伝統的に家事は妻が負担するものだという「イデオロギー仮説」
の3つです。
主に①と②の仮説について、統計的に因果関係を検証した研究が、筒井純也ら(2016年)『家事分担研究の課題-公平の視点から効果の視点へ』(季刊家計経済研究No.109)です。
それによると、夫婦の労働時間や所得の差は、それが変化しても家事の分担に大きく影響しないということが分かりました。むしろ、個人差の影響が大きいという見通しが得られたのです。やらない夫は妻が働いてもやらないし、やる夫はやる、ということです。
妻の収入アップは夫の家事負担がカギ
また別の方向から検討してみましょう。鶴光太郎ら(2016年)『夫の家事・育児参加と妻の就業決定-夫の働き方と役割分担意識を考慮した実証分析』(独立行政法人経済研究所)は、夫の家事育児参加度合いが妻の就業に与える影響を実証的に分析しました。
それによると、
- 夫が家事育児の負担割合を増やすと、妻が正社員で働く可能性や労働時間に制約の少ない働き方のできる可能性を高める
- 親の支援や保育園利用も含め「たまのサポート」より「日常的なサポート」が有効
- 夫がより柔軟な働き方をしたり「妻が家のことをやるべき」といった意識を手放したりすることが重要
という結論が得られました。
「妻の収入アップ」と「夫の家事負担」、この件に関しては「どちらがニワトリか卵か」のような話をすると、妻の収入アップを図るためには夫の家事負担を増やす方が先、ということになるでしょう。
妻と夫の家事シェア大作戦
家事分担表を作ってみよう
多くの共働き家庭では、妻に家事負担が偏っている現状が分かりました。その負担を減らすには、まずは夫婦でシェアしてみることが肝心です。しなくていい家事が含まれている可能性もありますが、シェアしてみないことには、それが欠かせないものなのか省けるものなのか、俎上に載せることもできないでしょう。
現状、誰がどんな家事を担っているのかを「見える化」するために有効なツールが、「家事分担表」です。「家事分担表」はネット検索、特に画像検索してみると、たくさんの種類のフォーマットを探すことができます。自分の家庭で取り入れやすそうだと思うものを使って、一度夫婦の家事負担の現状を棚卸ししてみましょう。
ポイントは負担の集中と隠れタスク
家事分担表を使って夫婦で確認するポイントは、まずは「どこに負担が集中しているか」です。単純に、妻に負担が集中していることが可視化されるかもしれませんし、「朝しかやっていない」「土日しかやっていない」「特定の家事しかやっていない」などといった集中が見つかるかもしれません。「定期的な家事と不定期に発生する家事」の負担に、偏りがある場合もあるでしょう。
また、最近注目されてきているのが「名もなき家事」。大和ハウス工業株式会社の調査をきっかけに、クローズアップされた存在です。「料理」や「洗濯」など名前があって分かりやすい家事以外の、「シャンプーが切れていたら補充する」「冷蔵庫の残り物を確認して買うべきものをリストアップする」「保育園の送り迎えの前後の連絡帳チェック」などといった、付随する周辺の細かな家事のことです。
普段メインで家事を担当しない人は、名もなき家事の存在を見落としがち。そういった隠れたタスクも、可視化していきましょう。
こうして一度家事の洗い出しをすると、自分たちはどう分担すべきなのか、あるいはその家事自体を省力化できるものなのか、話し合うフェーズに移れるはずです。
次世代の男の子と女の子のために
家庭科必修で変わる子供たちの意識
夫婦がともに働いていても、家事労働が妻に偏りがちになってしまうのは、「これまで女性がやるのが普通だった」「家事をする習慣がないまま成長してしまった」などという背景があります。しかし次世代の子供たちに、今の共働き夫婦の葛藤を引き継ぎたいでしょうか。
ひとつのカギが、家庭科の必修です。1994年、男女共通必修家庭科が、小学校から高校まで全面実施されることになりましたが、家庭科必修化の前と後で、子供たちの家族や保育に関する意識がどう変わったのか、報告した論文があります(中西雪夫、2011年『男女共通必修家庭科の成果と課題』日本家庭科教育学会誌No.53vol.4)。1990年代後半から実施した、高校生、大学生、社会人に対する意識調査の結果をまとめたものです。
それによると、男女共通必修家庭科を学んだ人たちでは、男女とも多様な家族観が形成され、自分の家族に対して好意的になり、男女平等な家庭生活意識が出来上がっていることが分かりました。
家事の力はすべての男女の生きる力
髙山純子(2017年)『生活経営の観点からみる男性の家事行動』(季刊家計経済研究No.114)は、家事への関わりが男性にとってどういった意味を持つのか、これまでの研究の振り返りとこれからの展望を論じています。
これまでの男性の家事研究では、主に「妻の家事負担を減らすためのもの」として論じられてきました。しかし現在、家事を含めた生活経営能力は、既婚男性だけでなく未婚男性やシングルファーザー、単身高齢者といった様々な男性たちに共通する課題となっています。そして家事の遂行能力は、男女を問わずすべての人たちが自立して他者と助け合いながら豊かな生活を築いていくための、大きな土台となるものなのです。
次世代のことを考えた時、家事の平等は男女の公平性の問題にとどまらず、女の子も男の子も生きる力を身につけることに繋がります。共働きの家事問題を解決するということは、生きる力の実践を、親が率先して見せていくということなのではないでしょうか。
参考
家事育児を「やっているつもり」の旦那へ見せた執念の分担図|ママスタセレクト
家事分担はこれで一生揉めない!苦手な人も安心『見える化』シート付|TOFUFU
家事育児総点検でわかる“朝だけイクメン”の現実|AERA
「名もなき家事」がモヤモヤを増幅させている|東洋経済オンライン
共働き夫婦の「家事」に関する意識調査|大和ハウス工業株式会社 TRY家コラム