最近話題になっているコーチング。ビジネスの場では、上司・部下での関わり方の一手法として、人材研修の手法として、注目されています。その手法を子育てにも応用することは、できないのでしょうか?
もくじ
コーチングとは?
大見出し
コーチングは、もともと馬車を表すcoachから発展した言葉で、人を「いきたい場所」に連れていくための手法と言われています。スポーツのコーチもよく聞く言葉かと思いますが、1990年代以降、アメリカでビジネスの場でも注目されるようになりました。
ティーチングから、コーチングへ
従来の指導法では、上司・講師という権威のある人が正しい答えを持っているという考えが主流でした。いわゆる一方的に教えていくティーチングです。一方で、コーチングは、クライアント自身の気づきから、新しい段階へと進めるようにしていきます。クライアント自身、つまり、部下や生徒達自身の手で答えを見つけられるという考え方なのです。
アクティブ・ラーニングに関心が持たれ、対話的な学びの必要性が求められる中で、教え方の時代は、ティーチングから、コーチングへと変化していこうとしています。
コーチングの3つの基本
ここで、様々なコーチングの手法に共通している3つの基本を確認します。
①双方向のやり取り
コーチングの核心とは何かと問われれば、それは発見と気づきと選択をもたらす ことである、と私たちは答えるでしょう。それは、人々が自らの答えを見つけ、人生に豊かさと変化をもたらすような選択を繰り返すことによって自らの道を歩むことができるよう、効果的にサポートするための手法なのです。
(引用元:ヘンリー・キムジーハウス; キャレン・キムジーハウス; フィル・サンダール(2012年6月)『コーチング・バイブル(第3版)―本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション』(東洋経済新報社))
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コーチングでは、本人から聞いた情報を元に、コーチが行動計画を立てるという訳ではなく、本人が対話のプロセスを通して、自分自身の行動計画を考えていくのが前提です。コーチは、コーチングを受けるクライアントを弱々しい存在としてではなく、創造力・才能にあふれた存在として、対等に受け入れることが重要なのです。
そのために、対話のプロセスを最も重視します。コーチングにおいて、傾聴・質問力に重点が置かれるのは、このためです。
②個別的な対応
コーチングでは、その人個人に注目します。その人が抱えている問題にばかり注目するだけでなく、その人自身がどのような考えを持っているか、行動パターンはどういうものかなど、その人自身が持っている背景や、コーチングを受けている際の感情・雰囲気にまで注目します。コーチが向き合うのは、課題ではなく、課題を抱えている本人自身なのです。現在話しているクライアントの問題が、クライアント自身の人生にどこまで関係しているかまで考える必要があります。
クライアントが自分自身のことを深く見れるように、コーチはクライアント個人に対して好奇心を持って接する必要があるのです。
③継続的な関わり
コーチングは、一度ではなく、継続的にコーチとクライアントが向き合うことを求めています。これは、実践したことに対してフィードバックを得て、日々改善するという行動と学習のプロセスを繰り返していくためです。長期的な視点で見ることによって、「5kg痩せた」「TOEIC800点」という分かりやすい計測可能な変化ばかりでなく、クライアント自身が本当に解決したいものは何か、本質的にどのように変化したいかまで向き合うことができるようになるのです。継続的に関わり続けられるような信頼関係も重要になってくるでしょう。
子育てで実践してみよう!
子育ての場であれば、コーチ=親、クライアント=子どもとなると言えるでしょう。
では、子育ての場ではどのようにクライアント=子どもにコーチングを行えば良いのでしょうか?
「子育てコーチング」の考え方を詳しく見ていきましょう。
①子どものことを聴こう
コーチングにおいて、傾聴というスキルは重要なもののひとつです。コミュニケーションと言っても、ただ話すだけでなく、子どもの話を聴くことが鍵となります。忙しい朝の時間に、話しかけてくる子どもに対して、「なんでそれだけのことを?」と思うようなこともきちんと話を聞いて、子どもが聞いて欲しいように尋ねる姿勢が重要です。
ここで、有効になるのが、ペーシングの技術です。
以下は、桜井さんとR子ちゃん親子の事例です。
病院の廊下のイスで、今日一日ここに一人で泊まらなければならないことを切り出したところ、 R子ちゃんは当然のように泣き出したそうです。(略)
「とまるの、いやだよー」途方にくれた桜井は確かにそうだなあ、と思い、「そう だよねえ……… いやだよねえ」 「とまるの、こわいよー」「そうだよねえ……… こわいよねえ」本当にそうだと思いながら、 R子ちゃんの言うことをただただ、繰り返していました。 ものの 二、 三分経ったでしょうか。 R子ちゃんはふと顔を上げて、「わかったよ、R子、びょういんにとまる」と言っ たというのです。
(引用元:あべまさい(2015年3月)『 子育てコーチングの教科書 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
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このように、子どもの気持ちに焦点を当てて、それを繰り返していくだけでも、子どもは聴いてもらったという感覚を得ることができます。
②子どもに質問しよう
コーチは質問のプロとも言われますから、親からも子どもに対して質問をして、考えを引き出すようにしましょう。ただ「できた?」「やった?」と聞くクローズドクエスチョンでは、子どもが裏の意図を汲み取って萎縮してしまう可能性があります。そこで、オープンクエスチョン、特に「なに」「なぜ」「どのように」を使うことで考えるきっかけを与えると良いでしょう。
ただし、「なぜ」の質問を過去の思わしくない出来事に使ってしまうと詰問になってしまいます。効果的に使わないと子どもがパニックになる可能性もあるので、気をつけましょう。
③子どものことを認めよう
子どものことを認めることは、「テストが100点だった」「シュートが決まった」という結果の承認だけにはおさまりません。「朝起きたら、挨拶の声かけをする」「子どもに笑顔を向ける」「傾聴する」という行為を重ねて、その存在自体を承認するようにしましょう。また、子どもがどんな風に世界を見ているか、子どもの感じている世界を一緒に味わうことも、子どもを認める一つの方法です。「こっちに来て!」「これ見て!」という呼びかけに応じて、一緒に行動することが重要なのです。
そうすれば、子どもを親と対等な存在として受け入れていく一歩になるでしょう。
④子どもにお願いしよう
コーチングの基本的なスキルで、「不満を要求に変える」というものがあります。
子どもに対しても、「なんでお皿洗わないの」と否定的に指導したり、不満を示したりするのではなく、「お皿洗いしてくれる?」とリクエストするような姿勢を持ちましょう。親としてのプライドが邪魔をしてしまうことも多いのですが、不満をぶつけるのではなく、シンプルにお願いすることが重要です。
また、相手のために求めるという意識をもつべきでしょう。「親である私が望んでいるから」ではなく、「純粋に子どもの未来のために求めること」つまり要望を伝えるスキルが求められます。
⑤子どもの特性を見よう
コーチングの基本的な考え方に、「個別化」があります。そのため、様々な視点から子どもの状態をみて、特性を理解するようにしていきましょう。
コミュニケーションのタイプはどのようなものか、視覚・聴覚等どの感覚が優位なのか、言語分野が優れているのか。一歩引いて、客観的に見ていく視点を増やすことも重要です。
絵:むらみ(Twitter @r_mura3)
終わりに
子どもと関わる中では、どうしても親が守らなくては、先回りしなくてはと思いがちです。ですが、対等な関係を築いて相手と向き合うことをコーチングでは求められます。
コーチングの考え方は、子どもの存在を決して無力ではないものと認めて、しっかりとその話を聴いていく姿勢の大切さを示していると言えるでしょう。
参考リンク
ヘンリー・キムジーハウス; キャレン・キムジーハウス; フィル・サンダール(2012年6月)『コーチング・バイブル(第3版)―本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション』(東洋経済新報社)
あべまさい(2015年3月)『 子育てコーチングの教科書 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
コーチングの基本 | コーチ・エィ アカデミア
理想の子供に育てる!子育てコーチングにおける3つの大事な事 | VisionaryMind
子育てコーチングマスター講座|kcoach – 子育ての悩み解決します :