子供にとっての「生きる力」とは?教育内容はどう変化していくのか

子供にとっての「生きる力」とは?教育内容はどう変化していくのか

学校教育の基本方針の中には、子供の「生きる力」を養うための土台となる教育作りが盛り込まれています。子供が個性を生かして将来社会で活躍していくためには、子供の教育内容はこの先どう変化するべきなのでしょうか。

当記事では、子供にとっての「生きる力」の定義や、海外と日本との違い、教育現場で行われている「生きる力」の教育法について紹介します。

子供にとっての「生きる力」とは?

教育現場での指針となる「学習指導要領」では、子供の生きる力を育むことの大切さについて記載されていますが、ここでいう子供にとっての「生きる力」とはどのような意味を持ち、生きる力が重要とされる背景にはいったい何があるのでしょうか。まずは、生きる力の基本的な考え方について紹介します。

生きる力の定義

子供の生きる力の定義として、白梅学園短期大学で保育学について研究を重ねる講師である源証香の資料に、以下のような記述があります。

中央教育審議会(1996)において,「生きる力」をスローガンとした教育の基本的方向が定められた。「生きる力」とは,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する能力のことであり,自らを律しつつ,他人と協調し,他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力と定義付けられている。教育のねらいは,変化の激しいこれからの社会を生き抜く力を育てることにあり,社会の変化に的確かつ迅速に対応する教育が必要であることが述べられている

(引用元:乳幼児期に培われる「生きる力」に関する研究|白梅学園大学・短期大学紀要

生きる力とは、子供自らが学び、課題を見つけ、問題を解決していく能力のことを指しており、これからますます変化を遂げていく社会の中で、子供たちがいかに自発的に生きていくことができるか、その基盤となる能力を養うことこそが子供の生きる力を育む教育だと言われています。

生きる力が重要になった背景

小学校では2020年から英語が必修科目となったり、パソコン操作の授業を導入するなど、学校教育における教育内容も常に変化しています。そんな中、文部科科学省が掲げる学習指導要領の基本的考え方として、以下のような記述があります。

「生きる力」=知・徳・体のバランスのとれた力
変化の激しいこれからの社会を生きるために、確かな学力、豊かな心、健やかな体の知・徳・体をバランスよく育てることが大切です。

(引用元:現行学習指導要領の基本的な考え方|文部科学省

生きる力が重要になった背景としては、動向の見えない社会に対応するために、子供の教育内容を一新する動きが高まったことが挙げられます。これからの時代にはどのような能力が必要で、どのように自分の能力を高めていくかを子供自身が考え、実行していくことが求められます。子供を持つ親にとっても、子供の成長を見守る忍耐力が求められています。

学習指導要領の改訂について

幼稚園の教育理念である「幼稚園教育要領」や、小中学校の「学習指導要領」は改訂を重ねていますが、現在の学習指導要領においては、以下の3つが基本的な考え方となります。

  • 教育基本法改正等で明確になった教育の理念を踏まえ、「生きる力」を育成
  • 知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視
  • 授業時数を増加道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成

(引用元:幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント|文部科学省

具体的な内容としては、授業数を増やしたり、伝統や文化教育の充実、外国語教育の導入が挙げられます。小中学校だけでなく、未就学児が通う幼稚園でも、新しい学習指導要領により、子供の生きる力を養う教育が実施されつつあります。

海外で定義されている「生きる力」は日本とどう違う?

国際社会に向けて、日本では生きる力を養う教育が導入されつつありますが、一方で海外ではどのように「生きる力」を定義し、国の教育政策に反映させているのでしょうか。社会に対応する力を養うための教育は、世界の国々でも行われており、特にイギリスやオーストラリア、カナダは進んでいるといわれています。

イギリスでは「自己改善力」や「問題解決力」が指導内容に

ヨーロッパのイギリスでは、2001年9月にナショナルカリキュラムと呼ばれる学習指導要領が一新され、以下のような具体的な提案がなされています。

  • 数の応用力
  • コミュニケーション能力
  • 情報活用能力
  • チームワーク力
  • 自己改善力
  • 問題解決力

コミュニケーション能力や情報活用能力は、ただ授業を聞いているだけでは身につきません。子供が周囲の人間と積極的にコミュニケーションをしたり、すでにある知識を生かして活用する能力を指しており、子供の自発性を養うことにつながると言えます。

また、チームワーク力では社会との協調性、自己改善力や問題解決力は、自分自身の力で自己を評価し、問題を解決していく力が求められます。イギリスでは、このような能力を各教科の学習過程で積極的に育成しようとしています。中等学校の実技テストでは、実践スキルがテストによって評価され、大学入試の得点に考慮される仕組みとなっています。

イギリスでの「生きる力」に対するこのような動きは、2001年から始まっていることから、変化の激しい社会で生き抜く力の重要性を、日本よりも早くから見出していたと言えます。

オーストラリアの教育改革

次に、オーストラリアの教育改革についても紹介します。

オーストラリアのクイーンズランド州教育省では、クイーンズランド大学のアラン・リューク教授を理論的なリーダーとして迎えて、より体系的に21世紀型学力を定義している。変革のポイントとして注目すべきことは、 2010年までに大学進学率と中等教育における基礎学力を先進国並に引き上げること、そして、 総合的な学習を2003年度から州内のすべての初等・中等学校で実施して、21世紀に対応する「新しい基礎学力」を育てるということである。(注3)
「新しい基礎学力」とは、21世紀の予測不可能な時代を生き抜くために必要な資質・能力のことで、The New Basicsと呼ばれている。

(引用元:「生きる力」は未来を創り出す21世紀型学力|ベネッセ教育総合研究所

「生きる力=21世紀型学力」と定義し、オーストラリアでは基礎学力の向上や総合学習を導入する動きが2000年代初頭から行われています。イギリスと同様に、自発的能力を養い、どんな時代でも生き抜くことができる能力の育成を目的としており、大学進学率の引き上げといった目標も掲げています。

このように、社会の変化に対応できる適応能力を、学校教育の中で計画的に育てるための教育改革が、世界の多くの国々でも本格的に行われています。日本の学習指導要領で掲げる「生きる力」が、これからどのようにして子供に影響を与えていくのか、その動向に注目が集まっています。

生きる力をどのように教育に盛り込むか

生きる力をどのように教育に盛り込むか
激しい変化を遂げる社会で生き抜くための「生きる力」を、教育現場ではどのように盛り込んでいくのでしょうか。まだ小学校に入学する前の乳児期や幼児期は、幼稚園の学習指導要領に盛り込まれた教育法により、自然とその能力を身につけていくことができると言います。

乳児期は愛されることで社会を受け入れるようになる

母親と過ごすことが多い乳児期においては、母親や周囲からの愛をしっかりと受け取ることで、社会を受け入れるようになると言います。

乳児期においては,十分に愛され,可愛がられ,今,この瞬間を充実させ,心地よさを感じることによって,初めて他を意識し,他を受け入れることに繋がっていく。保育所保育指針解説でも,「乳児期からスキンシップなど体が触れ合う関わりを通して心地よさを味わうこと」が大切であり,「子どもたちは遊びや生活を通し,今を充実させながら,生涯にわたって主体的に生きていくために必要な力の基礎を養っている」ことが挙げられているように,この瞬間を受け入れられず,充実した生活を送ることが出来なかったならば,「生きていくために必要な力の基礎」が揺らぐこととなる

(引用元:乳幼児期に培われる「生きる力」に関する研究|白梅学園大学・短期大学紀要

幼稚園や保育園へ初めて通う子供は、母親と離れることを拒否して泣いたりしますが、そこで大切なのは、保育士たちが子供の寂しさを認め、愛を持って接することです。特に多感な乳児の場合は、親や周囲の大人たちの存在が子供にとって安心できる存在だということを子供に伝えることで、他者を意識し、受け入れることにつながります。

幼児期前半は集団生活で生きる力を身につける

子供が3歳以上になると、1人ではなく友達と一緒に遊ぶ機会もあります。そこで身につく力が、集団生活で生き抜く力です。

幼児期には,集団で遊ぶ中で生まれる連帯感があり,友だちと共通した目的を持ち,一人ひとりが満足するまで遊び,共に楽しさを共有していく中で育っていくものがある。(中略)共有の目的を持ち,楽しさを共有するからこそ,問題が起きたときにみんなで解決していこうとする力が育つ。そのような力は,集団生活の醍醐味のひとつであり,幼児期の集団生活の中でこそ培われる力である。

(引用元:乳幼児期に培われる「生きる力」に関する研究|白梅学園大学・短期大学紀要

最初は他人を観察しながらも徐々にスキンシップを取り入れることで、自分以外の人間と共通の目的意識を持つことができます。こうした時間も、「生きる力」を育むための基礎となっていきます。

幼児期後半は他者を受け入れることで生きる力が養われる

子供が5歳以上になると、ときには失敗したり、喜びが倍増したりと、精神面においてもさまざまな変化を迎ええます。そこで養われる能力が、他者を受け入れる能力だと言います。

保育所保育指針解説書では,生きる力を培う具体策の一つとして「興味や関心を育て,思考力や認識力の基礎を培うこと」を挙げている。5歳児は,様々な事に興味や関心を持つが,一方で,保育者が意識して興味や関心を育てようと働きかけることも多い。いろいろな失敗を含む多くの体験から,思考力や認識力の基礎を培うことに他ならない。(中略)「生きる力」とは,ただ単に個人の能力だけを指すものではないことがわかる。共に生活し,共に遊ぶ中で,他者への思いやりや,他者と共存する心地よさを感じ,他者を受け入れ,認めていくという力が「生きる力」ではないだろうか。

(引用元:乳幼児期に培われる「生きる力」に関する研究|白梅学園大学・短期大学紀要

自分の個性を認め、かつ他者を受け入れることを幼児期に学ぶことは、幼児期における重要な体験だと言えます。社会に出たときに求められる「生きる力」の基礎とは、幼児期や乳児期における周囲の関係も大きく関わっていると言えるでしょう。

教育現場では「生きる力」を養うために何をしているのか

それでは次に、これからの教育現場がどのように変わっていくのか、政府が発表している学校教育の在り方について紹介します。日本の教育改革はどのような内容なのでしょうか。

基礎をしっかりと学ぶ教育へ移行

子供自身の力で学び、考える力を養うためには、まずは学力の基礎や生活の基本をしっかりと学ぶことが大切だと言います。学校で勉強する内容については、子供の発達段階に合わせた教育内容を徹底します。知識を一方的に教え込む教育スタイルではなく、子供が発言したり学んでいく姿勢を身につける教育法へと移行していくことが求められています。

子供の個性を活かす教育内容へ

生きる力を育む上では、個性を生かした教育を行うことが重要だと言われており、学校での指導方法の改善や、特色のある学校づくりを進める動きが広がっています。文部科学省の中央教育審議会は、学校教育の改革内容について以下のように公表しています。

小・中学校においては、教育内容の厳選によって生じる[ゆとり]を生かし、[ゆとり]を持った授業の中で、子供たちの発達段階に即し、ティーム・ティーチング、グループ学習、個別学習など指導方法の一層の改善を図りつつ、個に応じた指導の充実を図る。また、自ら学び、自ら考える教育を行っていく上でも、問題解決的な学習や体験的な学習の一層の充実を図る。
とりわけ、中学校においては、小学校で培われた資質や能力をよりよく向上させるとともに、義務教育段階ではあるものの、小学校と比べ、生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化が一層進む時期であることを踏まえ、生徒の特性等に応じることができるよう、履修の選択幅の一層の拡大を図る必要がある。

(引用元:第1章 これからの学校教育の在り方|中央教育審議会

小学校や中学校では、個別学習や子供の特性に合った授業内容など、教育方法の見直しを図っています。

生きる力とは、変化の激しい社会で生き抜く力

子供の教育内容に大きく関わっている「生きる力」。激しく変化する社会でいかに生き抜く力が求められているかが、教育内容を見直す動きや学習指導要領から伝わってきます。子供たちの成長に欠かせないのは周囲のサポートです。将来子供たちがたくましく生きていくためには、自発的な行動を促す「生きる力」を伸ばす教育法が大きなポイントとなりそうです。

参考
乳幼児期に培われる「生きる力」に関する研究|白梅学園大学・短期大学紀要
現行学習指導要領の基本的な考え方|文部科学省
「生きる力」は未来を創り出す21世紀型学力|ベネッセ教育総合研究所
幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント|文部科学省

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cocoiro編集部

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